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コンプレックスだった出っ歯を治した私の矯正体験記
私の長年のコンプレックスは、上の前歯2本が少しだけ前に出て、なおかつハの字に傾いていることでした。友人たちは「チャームポイントだよ」なんて言ってくれましたが、私にとっては写真を撮られるたびに口元を隠したくなる、悩みの種でしかありませんでした。全体的に歯並びが悪いわけではなかったので、大掛かりな矯正をするほどでもない…と、ずっと治療をためらっていました。そんな私が一念発起したのは、26歳の時。結婚を控えた親友が、マウスピース矯正で驚くほど綺麗になっていく姿を目の当たりにしたのがきっかけでした。「私も、人生で一番綺麗な姿で写真を撮りたい」。そう思い、いくつかのクリニックでカウンセリングを受けました。精密検査の結果、幸いにも私の場合は奥歯の噛み合わせに大きな問題がなく、前歯だけの部分矯正で対応できるとのこと。私が選んだのは、歯の表側に透明なブラケットと白いワイヤーをつける、目立ちにくいワイヤー矯正でした。治療期間の目安は、約10ヶ月。装置をつけた最初の数日は、歯が浮くような鈍い痛みに悩まされましたが、1週間もすればすっかり慣れました。月に一度の調整日には、ワイヤーが締め付けられる感覚と共に、歯が確実に動いていることを実感でき、それがモチベーションになりました。何より嬉しかったのは、治療開始からわずか3ヶ月ほどで、見た目に明らかな変化が現れたことです。ハの字だった前歯が徐々にまっすぐになり、突出感も薄れていきました。そして約束の10ヶ月後。装置が外れた日、鏡に映る自分の笑顔を見て、私は思わず息をのみました。コンプレックスだった前歯は綺麗にアーチの中に収まり、口元の印象が驚くほど洗練されて見えたのです。たった前歯数本を動かしただけ。でも、その変化は、私に自分自身を好きになるための、大きな自信を与えてくれました。今では、どんな角度から写真を撮られても平気です。あの時、勇気を出して一歩を踏み出して、本当によかったと心から思っています。
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歯列矯正は最高の歯周病予防になるという事実
「歯周病があると歯列矯正はできない」という話はよく知られていますが、その逆の視点、つまり「歯列矯正をすることが、将来の歯周病予防に繋がる」という事実は、あまり知られていないかもしれません。歯列矯正は、単に見た目を美しくするだけでなく、お口の健康を長期的に守るための、極めて有効な「予防歯科治療」という側面を持っているのです。なぜ、歯並びを整えることが歯周病予防になるのでしょうか。その理由は、セルフケアの効率、すなわち「歯磨きのしやすさ」が劇的に向上するからです。歯が重なり合っていたり、ねじれて生えていたりする場所は、歯ブラシの毛先が届きにくく、どうしても磨き残しが生まれがちです。その磨き残しは歯垢(プラーク)となり、歯周病菌の格好のすみかとなります。どんなに丁寧に磨いているつもりでも、構造的に汚れが溜まりやすい場所があれば、そこから歯周病は静かに進行していきます。しかし、歯列矯正によって歯が綺麗にアーチ状に並ぶと、どうでしょう。歯と歯の間の隙間や、歯と歯茎の境目に歯ブラシがスムーズに届くようになります。フロスや歯間ブラシも、引っかかることなく通せるようになります。つまり、毎日の歯磨きで、効率的かつ効果的にプラークを除去できるお口の環境が手に入るのです。これは、長期的に見れば非常に大きなアドバンテージです。歯周病は、一度進行して失われた骨を元に戻すのが非常に難しい病気です。将来、歯周病の治療にかかる費用や時間、そして何より歯を失うリスクを考えれば、若いうちに歯並びという根本的なリスク要因を改善しておくことは、計り知れない価値のある「健康投資」と言えるでしょう。歯列矯正を、審美性だけでなく、生涯自分の歯で食事を楽しむための予防策として捉え直してみてはいかがでしょうか。
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歯周病で歯を失った50代男性が歯列矯正で機能を取り戻す
建設会社で現場監督として働く高橋さん(54歳)は、長年の喫煙習慣と不規則な生活がたたり、重度の歯周病と診断された。痛みやグラつきがひどかった下の奥歯は、残念ながら抜歯せざるを得なかった。歯を一本失っただけ、と高を括っていた彼だったが、数年経つうちに口の中に様々な不具合が生じ始めた。抜けた歯のスペースに、両隣の歯が倒れ込んできたのだ。その結果、全体の噛み合わせが狂い、食事の際には食べ物がうまく噛み砕けない。さらに、傾いた歯の周りには汚れが溜まりやすくなり、残っている他の歯の歯周病まで悪化し始めた。「このままでは、全ての歯を失ってしまうかもしれない」。強い危機感を覚えた高橋さんが相談に訪れたのは、歯周病治療と矯正治療を連携して行う歯科医院だった。歯科医師から提案されたのは、口腔機能全体を再建するための包括的な治療計画だった。まず、徹底的な歯周病治療で、これ以上の病気の進行を食い止める。次に、歯列矯正によって、倒れ込んでしまった歯を元の正しい位置に「起こし(アップライト)」、全体の噛み合わせを再構築する。そして最終的に、失った部分にはインプラントを埋入するための適切なスペースを確保するという壮大な計画だった。治療は、高橋さんにとって未知の領域だった。しかし、歯科医師や衛生士の熱心なサポートのもと、彼は禁煙にも成功し、真摯に治療に取り組んだ。約2年後、矯正装置が外れ、インプラントが装着された彼の口の中は、見違えるように機能的で美しい状態になっていた。歯列矯正は、彼にとって単なる歯並びの治療ではなかった。それは、歯周病で崩壊しかけていた口腔内をリハビリテーションし、残りの人生を自分の歯で健康に過ごすための、希望の光だったのだ。