新卒で入社した広告代理店。営業としてクライアントの前に立つ機会が増えるにつれ、私は自分の口元が気になって仕方がなかった。少しガタついた前歯がコンプレックスで、自信を持って提案ができない。思い切って歯列矯正をしようと決めたものの、24歳で金属の装置をギラつかせることには、どうしても抵抗があった。「矯正中の今」も、私にとっては大切な時間だから。いくつかのクリニックでカウンセリングを受け、私が出会ったのが「セラミックブラケット」という選択肢だった。先生が見せてくれた模型のそれは、歯の色に溶け込むような白い装置で、これなら目立たずに治療ができそうだと直感した。費用は金属の装置より20万円ほど高かったけれど、これは未来の自分への、そして「今の自分」への投資だと思い、決断した。治療が始まると、その選択は正解だったとすぐに実感した。最初のうちは多少の違和感はあったものの、鏡で見ても、ぱっと見では矯正していることが分からない。職場の同僚にも、「言われるまで気づかなかった」と驚かれたほどだ。クライアントとの食事会でも、口元を気にすることなく会話に集中できた。この「目立たない」という精神的な安心感は、想像以上に大きかった。もちろん、毎月の調整後の痛みや、食べ物が挟まりやすいといったワイヤー矯正ならではの苦労はあった。それでも、治療期間を前向きな気持ちで乗り越えられたのは、見た目のストレスがなかったからに他ならない。そして、二年半後。ついに装置が外れた日、鏡に映る完璧に整った歯並びを見て、私は心から「やってよかった」と思った。手に入れたのは、美しい笑顔だけではない。人前で堂々と振る舞える自信と、目標に向かって努力し続けた達成感だった。セラミックブラケットは、私の長い矯正生活を、陰ながら支え続けてくれた、最高のパートナーだった。