歯列矯正と一言でいっても、そのアプローチは患者さんの年齢によって大きく異なります。ここでは、8歳のAちゃん、15歳のBくん、そして30歳のCさんという、三つの異なる年代のケースを例に、治療の進め方の違いを見ていきましょう。まず、小学校2年生の8歳のAちゃん。彼女の悩みは、下の歯が上の歯より前に出ている「受け口」です。この時期の治療(I期治療)の主目的は、歯を動かすことよりも、顎の成長をコントロールすることにあります。Aちゃんには、夜寝る時だけ「ムーシールド」や「フェイシャルマスク」といった装置を使ってもらい、下顎の過度な成長を抑え、上顎の成長を促します。土台となる骨格の問題を早期に解決することで、将来の本格矯正を有利に進めるのが狙いです。次に、高校1年生の15歳のBくん。彼の悩みは、前歯がガタガタの「叢生(そうせい)」です。永久歯が全て生え揃い、顎の成長もほぼ完了しているため、歯を直接動かす本格矯正(II期治療)が始まります。Bくんは、目立ちにくい白いブラケットとワイヤーを歯の表側につけ、約2年間かけて歯をきれいに並べていきます。彼の年代は新陳代謝が活発なため、歯の動きも比較的スムーズです。最後に、IT企業に勤める30歳のCさん。彼女は、見た目はもちろん、最近悪化してきた肩こりも噛み合わせが原因ではないかと考えています。彼女が選んだのは、仕事に支障が出にくい透明なマウスピース型の矯正装置です。大人の矯正では、歯の動きが若い頃よりゆっくりなこと、そして歯周病などのリスクがないかを慎重に管理しながら治療を進める必要があります。Cさんの場合、噛み合わせの改善という機能的な目的も重視し、最終的なゴールを慎重に設定します。このように、年齢によって治療の目的、使用する装置、そして注意すべき点は全く異なります。それぞれのライフステージに合わせた最適な治療計画を立てることが、成功への鍵となるのです。
年齢でこんなに違う矯正治療の進め方