私たちは日々、「何歳がベストですか?」という質問を受け、その度に「ベストなタイミングは人それぞれですよ」とお答えします。これは、決して紋切り型の回答ではありません。矯正歯科医として多くの症例に触れてきたからこそ、年齢という一つの指標だけでは計れない「本当にベストな時期」が存在することを、私たちは知っているのです。では、そのタイミングとは一体いつなのでしょうか。私は、それが二つの条件を満たした時だと考えています。一つは、「患者様ご本人が、心から治したいと強く思った時」。特に成人矯正の場合、これが最も重要な原動力となります。歯列矯正は、決して楽な治療ではありません。費用も時間もかかりますし、治療中には様々な不便さも伴います。その困難を乗り越えるためには、「きれいになりたい」「コンプレックスを解消したい」というご自身の強いモチベーションが不可欠です。誰かに言われたからではなく、自分の意志で決断した時こそが、治療を最後までやり遂げるための最高のスタートラインなのです。もう一つの条件は、「経済的、時間的、環境的に、治療を受け入れる準備が整った時」です。安定した生活基盤があり、定期的な通院時間を確保でき、治療への協力を得られる家族の理解がある。こうした環境が整って初めて、心穏やかに治療に専念することができます。もちろん、骨格の成長を利用できる子供のI期治療のように、年齢的なメリットが大きい時期は存在します。しかし、それもご本人とご家族の準備が整っていなければ意味がありません。年齢という数字に縛られる必要は全くないのです。あなたが本気で変わりたいと願い、そのための準備が整った時。それこそが、何歳であっても、あなたにとっての「本当にベストな開始時期」なのです。