歯列矯正治療によって「別人みたい」と言われるほどの大きな変化を期待する方もいらっしゃるでしょう。確かに、前述の通り、口元の印象が劇的に変わったり、フェイスラインがシャープになったり、表情が明るくなったりすることで、まるで生まれ変わったかのような印象を与えることは可能です。しかし、歯列矯正治療には限界もあり、全ての希望が叶うわけではありません。その可能性と限界を正しく理解しておくことが、後悔のない治療結果を得るためには重要です。まず、歯列矯正治療の「可能性」としては、やはり「歯並びと噛み合わせの劇的な改善」が挙げられます。どんなに複雑な不正咬合であっても、現代の矯正技術と歯科医師の適切な診断・治療計画があれば、機能的にも審美的にも大きく改善することができます。これにより、口元の突出感の解消、Eラインの整備、フェイスラインのシャープ化、笑顔の美しさの向上といった、顔貌の印象を大きく左右する変化が期待できます。また、発音の改善や咀嚼機能の向上といった機能的なメリットも、自信に繋がり、内面からの変化を促すでしょう。しかし、歯列矯正治療の「限界」も認識しておく必要があります。最も重要なのは、「骨格そのものを大きく変えることはできない(外科手術を伴わない場合)」という点です。歯列矯正は、主に歯と歯槽骨(歯を支える骨)を動かす治療であり、頬骨の高さやエラの形、顎の骨の長さや幅といった、顔の基本的な骨格構造を直接的に変えることはできません。したがって、「鼻を高くしたい」「目を大きくしたい」「顎を短くしたい」といった、美容整形手術で対応するような骨格レベルでの変化を、歯列矯正だけで実現するのは不可能です。また、「軟組織(皮膚や唇)の量や質を大きく変えること」も困難です。例えば、元々唇が薄い方が、歯列矯正だけでふっくらとした厚い唇になるわけではありません。歯の移動によって唇の支え方が変わり、多少の形状変化は起こり得ますが、限界があります。さらに、「加齢による皮膚のたるみやシワを完全に解消すること」も、歯列矯正の主目的ではありません。噛み合わせの改善によって表情筋のバランスが整い、たるみが軽減される可能性はありますが、美容医療のような直接的なリフトアップ効果を期待するのは難しいでしょう。