ITエンジニアのBさん(28歳)が、都内にある当院の矯正専門クリニックの門を叩いたのは、彼が地方都市に住んでいた頃でした。Bさんは、長年、前歯の重なりと突出感に悩んでおり、地元の歯科医院数件に相談したものの、より専門的な治療を求めて、新幹線で2時間かけて当院のカウンセリングに訪れたのです。精密検査の結果、Bさんの症例は抜歯を伴うワイヤー矯正が最適であると診断されました。彼が最も懸念していたのは、月1回程度の通院を、仕事を続けながら遠距離でこなせるかという点でした。私たちはBさんと共に、その課題を乗り越えるための計画を練りました。まず、Bさんの仕事のスケジュールを考慮し、調整の予約は必ず土曜日に設定することにしました。幸い、Bさんの職場は比較的休暇が取りやすかったため、月に一度の「矯正休暇」として、金曜の午後から移動し、土曜に治療を受けて日曜に戻るというリズムを作ることにしました。もちろん、交通費の負担は決して小さくありません。しかしBさんは、「これは最高の笑顔を手に入れるための投資。毎月の旅行だと思えば楽しめる」と、非常に前向きに捉えていました。また、私たちは遠距離通院の不安を少しでも和らげるため、コミュニケーションを密に取ることを心がけました。装置が外れた、ワイヤーが口に刺さって痛い、といった緊急性の低いトラブルであれば、まずはスマートフォンのカメラで撮影した写真を送ってもらい、状況を確認。電話で応急処置の方法を指示し、次回の来院時まで様子を見るなど、柔軟に対応しました。Bさん自身も、限られた通院機会を最大限に活用しようと、毎回、質問や不安な点をメモにまとめて持参するなど、治療への意識が非常に高い患者様でした。そして約2年半後、Bさんは見違えるように整った歯並びを手に入れました。治療の途中で彼は都内に転勤となりましたが、遠距離通院を乗り越えた経験は、彼に大きな自信を与えたようです。彼の事例は、強い意志と、医師と患者の協力体制があれば、物理的な距離は治療の障壁にはならないことを私たちに教えてくれました。