「セラミックで歯列矯正をしたい」と考えたとき、実はそこには全く異なる二つのアプローチが存在することをご存知でしょうか。この二つを混同してしまうと、思わぬ後悔に繋がる可能性があるため、まずはその違いを正しく理解することが非常に重要です。一つ目は、「セラミックブラケット」を用いた、いわゆる「本当の歯列矯正」です。これは、歯の表面に「ブラケット」と呼ばれる小さな装置を接着し、そこにワイヤーを通して力をかけ、数ヶ月から数年かけて歯そのものを動かしていく伝統的で確立された治療法です。このブラケットの素材として、従来は金属が主流でしたが、審美的な要求の高まりから、歯の色に近い白や透明の「セラミック」で作られたものが開発されました。これがセラミックブラケットです。目立ちにくいため、矯正中の見た目が気になる方に大変人気があります。この方法は、時間はかかりますが、自分の歯を削ることなく、歯根から動かして理想的な歯並びと噛み合わせを獲得する、根本的な治療と言えます。二つ目は、歯を削って「セラミッククラウン(被せ物)」を装着し、短期間で歯並びが整ったように見せる「審美歯科治療」です。これは俗に「セラミック矯正」と呼ばれることがありますが、歯を動かすわけではないため、厳密には歯列矯正ではありません。歯のガタつきが気になる部分を削り、その上から理想的な形に作られたセラミックの被せ物を装着することで、まるで歯並びが綺麗になったかのような見た目を手に入れる方法です。治療期間が数週間から数ヶ月と非常に短いのが最大のメリットですが、その裏側で健康な歯を大きく削るという、不可逆的な処置が必要になります。このように、「セラミック」という同じ言葉が使われていても、一方は「歯を動かすための目立ちにくい装置」、もう一方は「歯を削って被せる材料」であり、その目的もプロセスも、歯への影響も全く異なります。ご自身が求めるものがどちらなのか、そのメリットとデメリットを天秤にかけ、慎重に選択することが後悔しないための第一歩です。