歯周病のまま歯列矯正はできない?知っておくべき大原則
歯並びのコンプレックスを解消したいと考えた時、多くの人が歯列矯正を選択肢に入れます。しかし、もしあなたのお口の中に「歯周病」が潜んでいたとしたら、その計画は一度立ち止まる必要があります。結論から言うと、活動性の歯周病がある状態で歯列矯正を始めることは、原則としてできません。これは、歯科医師が患者さんの安全を第一に考えているからこその大原則なのです。なぜ、歯周病のままではいけないのでしょうか。その理由を理解するためには、歯が動く仕組みと歯周病の恐ろしさを知る必要があります。歯列矯正は、歯に持続的な力を加えることで、歯を支えている骨、すなわち「歯槽骨」の吸収と再生という代謝(リモデリング)を利用して歯を動かします。一方で、歯周病は、歯周病菌によって歯茎に炎症が起き、進行するとこの歯槽骨を溶かしてしまう病気です。つまり、歯周病にかかっているお口の中は、いわば建物の土台が腐食しているような状態なのです。そんな不安定な土台の上で、歯を動かすという大きな力をかける行為は、非常に危険です。無理に矯正治療を進めると、歯槽骨の破壊がさらに加速し、歯が著しくグラグラになったり、歯茎が大きく下がってしまったり、最悪の場合は歯が抜け落ちてしまうリスクさえあります。これは、美しくなるための治療で、かえって歯の寿命を縮めてしまうという、本末転倒な事態です。したがって、歯列矯正を安全に進めるための絶対条件は、「健康な歯周組織」であること。もし歯周病と診断された場合は、まずはその治療に専念することが最優先となります。歯周病治療で歯茎の炎症を完全に取り除き、歯槽骨の状態が安定してから、ようやく歯列矯正のスタートラインに立つことができるのです。