近年、YouTubeやTikTokといったSNSプラットフォーム上で、「DIY矯正」「セルフ矯正」と称し、輪ゴムや市販の安価なマウスピース、さらには日用品などを使って自分で歯並びを治そうとする動画や情報が拡散され、一部で話題となっています。これらのコンテンツは、手軽さや費用の安さを強調し、 마치誰でも簡単に歯列矯正ができるかのような印象を与えますが、その裏には大きな危険性が潜んでいます。SNSで拡散されるDIY矯正の多くは、科学的根拠に乏しく、専門的な知識を持たない個人が面白半分で試しているケースや、あるいは悪質な業者が効果を過大に宣伝しているケースが少なくありません。例えば、輪ゴムを使って歯の隙間を閉じようとする方法は、一見すると歯が動くように見えるかもしれませんが、歯にかかる力が強すぎたり、不適切な方向にかかったりすることで、歯肉に食い込んで炎症を起こしたり、歯根を傷めたり、最悪の場合、歯が抜け落ちてしまうリスクがあります。また、インターネット通販などで安価に販売されている「矯正用」と謳われるマウスピースも、個々の歯並びに合わせて精密に作製されたものではないため、効果がないばかりか、かえって歯並びを悪化させたり、顎関節に負担をかけたりする可能性があります。これらのDIY矯正の問題点は、歯科医師による正確な診断と治療計画が一切行われないことです。歯並びの状態は一人ひとり異なり、骨格や歯の大きさ、噛み合わせのバランスなどを総合的に評価した上で、適切な治療法を選択する必要があります。また、歯を動かす際には、歯周組織や歯根、顎関節への影響を常に考慮し、安全かつ効果的な力をコントロールしなければなりません。SNSの情報だけを鵜呑みにして、安易にDIY矯正に手を出すことは、例えるなら、自己流で手術を行うようなものです。一時的に歯が動いたとしても、それが正しい方向に動いているのか、噛み合わせは大丈夫なのか、歯や歯周組織にダメージは生じていないのか、といった専門的な判断はできません。そして、もしトラブルが発生した場合、その責任は全て自分自身にあり、場合によっては歯科医院で高額な修復治療が必要になることもあります。SNSの情報は玉石混交です。特に、自身の健康に関わることについては、情報の真偽を慎重に見極め、必ず信頼できる専門家の意見を求めるようにしましょう。