私は昔から、自分の笑顔が好きではなかった。理由は、八重歯と、全体的に少し乱れた歯並びのせい。写真を撮られる時はいつも、口を固く結んでしまう。友達と心から笑い合っている時でさえ、ふと口元が気になって、楽しさが半減してしまうような感覚があった。社会人になり、営業職として多くの人と接するようになってから、そのコンプレックスはさらに大きくなった。そんな私が決断したのが、舌側矯正だった。仕事柄、目立つ装置は絶対に避けたかったので、選択肢はこれしかなかった。治療が始まってからの二年間は、決して楽な道のりではなかった。最初の数ヶ月は、舌が装置に当たってできる口内炎と、思うように喋れないストレスとの戦いだった。食事も細かく刻んだものばかりで、大好きな硬いパンを食べることもできない。正直、何度も心が折れそうになった。それでも、鏡を見るたびに少しずつ歯が動いているのが分かると、それが何よりの励みになった。そして、ついに装置が外れる日がやってきた。歯科衛生士さんに手鏡を渡され、恐る恐る自分の口元を見た瞬間、思わず息を飲んだ。そこには、ずっと夢見ていた、綺麗に整った歯並びがあった。自然と口角が上がり、生まれて初めて、自分の笑顔を「良いな」と思えた。その日の帰り道、ショーウィンドウに映る自分の顔が、いつもよりずっと明るく見えたのを今でも覚えている。歯並びが変わっただけで、こんなにも世界が違って見えるなんて。今では、人前で話すことにも、写真を撮られることにも、何の躊躇もない。舌側矯正は、私の歯並びだけでなく、内気だった私の心まで変えてくれた、人生最高の自己投資だったと確信している。