なぜ矯正で唇の厚みが変わるのか?その科学的根拠
歯列矯正によって唇の厚みが変わって見えるという現象は、単なる感覚的なものではなく、明確な科学的根拠に基づいています。私たちの唇の形やボリュームを決定しているのは、唇そのものの軟組織だけでなく、その内側で土台となって支えている「歯」と、歯が植わっている「歯槽骨」の位置と角度です。特に前歯は、唇の形態に直接的な影響を与えます。例えば、前歯が唇側に大きく傾斜している上顎前突(出っ歯)のケースを考えてみましょう。この状態では、歯と歯槽骨が唇を前方へ強く押し出しているため、唇は本来以上に伸展し、厚く見えます。ここから歯列矯正を行い、前歯を後方へ移動させると、歯の傾斜角度が改善されるとともに、歯を支える歯槽骨もリモデリング(骨の吸収と添加による再構築)を起こし、後退します。つまり、唇を支えている骨格レベルの土台そのものが内側に移動するのです。この硬組織の変化に伴い、その上を覆っている唇という軟組織も追従して後退し、前への張りがなくなるため、結果として唇が薄く、すっきりとした見た目に変化します。この軟組織の変化量は、硬組織(歯や骨)の移動量と一定の相関関係があることが、多くの研究で示されています。逆に、歯が舌側に倒れ込んでいる症例では、矯正によって歯を唇側に適正な角度まで移動させることで、内側に入り込んでいた唇の組織が押し出され、ボリュームが増してふっくらと見えるようになります。このように、唇の厚みの変化は、歯と骨という硬組織の移動に起因する物理的な現象であり、歯列矯正が顔の審美性を根本から変える力を持つことの科学的な証明と言えるのです。