前歯だけの歯列矯正、すなわち部分矯正を実現するためには、いくつかの特徴的な技術的アプローチが用いられる。治療法は大きく分けて、ワイヤーを用いる方法と、マウスピースを用いる方法の二つが存在する。ワイヤー矯正の場合、ブラケットと呼ばれる小さな装置を歯の表面(または裏側)に接着し、そこにワイヤーを通して力をかけ、歯を動かしていく。部分矯正では、このブラケットを装着する範囲を限定するのが特徴だ。一般的には、前から数えて3番目の犬歯から犬歯までの上下6本ずつ、計12本程度が対象となる。奥歯を固定源として利用し、前歯だけを効率的に動かす設計だ。ワイヤーには、丸い断面のものや四角い断面のもの、様々な太さや硬さのものがあり、治療の段階に応じて使い分けることで、精密な歯のコントロールを可能にする。近年では、白いセラミック製のブラケットや歯の裏側に装着する舌側矯正など、目立ちにくい装置が主流となり、部分矯正のハードルをさらに下げている。一方、マウスピース矯正は、透明な樹脂で作られたオーダーメイドの装置を段階的に交換していくことで歯を動かす。この治療法では、まず3Dスキャナーで口腔内をデータ化し、専用のソフトウェア上で最終的な歯並びまでの歯の動きを緻密にシミュレーションする。このシミュレーションに基づき、数十枚に及ぶマウスピースが一度に製造される。部分矯正の場合、このシミュレーションの段階で動かす歯を前歯部に限定し、奥歯は動かさない、あるいは固定源としてわずかに動かす程度の計画を立てる。ワイヤー矯正に比べてかけられる力がマイルドであるため、適応症例は限られるが、取り外しが可能で審美性に優れるという大きな利点がある。どちらの治療法を選択するにせよ、成功の鍵は、限られた範囲の動きで全体の調和をいかにして生み出すかという、歯科医師の診断力と治療計画の精度にかかっている。
前歯だけを治す部分矯正の技術的アプローチ