アパレルショップで働くミナさんは、雑誌の読者モデルとしても活動していた。彼女の悩みは、少しだけ重なり合った前歯。撮影で笑顔を作るたび、そのわずかな影が気になっていた。次の大きな撮影までに何とかしたい一心で、彼女はインターネットで見つけた「最短2週間で白い歯に」と謳う審美歯科の門を叩いた。そこで提案されたのが、前歯6本を削ってセラミックの被せ物をする、いわゆるセラミック矯正だった。短期間で、歯並びだけでなく歯の色まで理想的な白さにできるという説明に、彼女は即決した。数回の通院で、彼女の口元は劇的に変わった。寸分の狂いもなく並んだ、陶器のような真っ白な歯。手に入れた完璧な笑顔に、ミナさんは心から満足し、モデルの仕事も順調だった。しかし、その輝きに影が差し始めたのは、治療から4年が過ぎた頃だった。セラミックを被せた歯の一本が、噛むとズキッと痛むようになったのだ。冷たい水もしみる。最初は気のせいかと思っていたが、痛みは日に日に強くなり、歯茎も赤く腫れてきた。心配になって近所の歯科医院を受診した彼女は、歯科医師から衝撃的な事実を告げられる。「セラミッククラウンの下で、神経が死んでしまい、根の先に膿が溜まっていますね」。健康だった歯は、セラミックを被せるために大きく削られ、神経ギリギリまで達していた。そこから細菌が入り込み、神経が死んでしまったのだという。治療には、高価なセラミックを一度壊して外し、根管治療を行う必要があること、そして最悪の場合、抜歯になる可能性もあることを聞き、ミナさんは血の気が引くのを感じた。あの時、手軽さと速さだけを求めて安易に歯を削ってしまったことへの後悔が、痛みと共に彼女の胸に突き刺さった。彼女が手に入れたのは、刹那的な美しさ。そして、失いかけたのは、お金では決して買うことのできない、歯の健康そのものだった。
彼女がセラミック矯正で手に入れた笑顔と失ったもの