42歳の誕生日を目前に、私は長年の夢だった歯列矯正を決意しました。若い頃からコンプレックスだった前歯のガタガタ。人生の折り返し地点で、自分への投資として、自信の持てる笑顔を手に入れたかったのです。しかし、期待に胸を膨らませて訪れた矯正歯科で、私は思いがけない現実を突きつけられました。「重度の歯周病です。このままでは、とても矯正治療は始められません」。頭を鈍器で殴られたような衝撃でした。自覚症状はほとんどなく、歯並びのことばかり気にしていた私にとって、それは全くの想定外の宣告でした。そこから、私の本当の戦いが始まりました。矯正治療ではなく、地道で根気のいる歯周病治療です。まずは、歯科衛生士さんによる徹底した歯石除去(スケーリング)とブラッシング指導。今までいかに自分が雑な歯磨きをしていたかを思い知らされました。歯と歯茎の境目に45度の角度で歯ブラシを当て、一本一本丁寧に磨く。フロスと歯間ブラシも必須です。その後、麻酔をして歯周ポケットの奥深くの歯石を取り除く「ルートプレーニング」も数回に分けて行いました。それでも改善しない深いポケットがあり、ついには歯茎を切開して汚れを取り除く「歯周外科手術(フラップ手術)」も経験しました。治療中は、自分の口腔衛生に対する意識の低さを何度も呪いました。しかし、数ヶ月かけて治療を続けるうちに、ブヨブヨしていた歯茎はきゅっと引き締まり、歯磨きの後の出血もなくなりました。そして、ついに担当医から「歯茎の状態が安定しましたね。これなら矯正治療を始められます」とGOサインが出たのです。その時の安堵と喜びは、今でも忘れられません。歯周病治療という遠回りは、決して無駄な時間ではありませんでした。それは、矯正治療を成功させ、そして手に入れた歯並びを生涯にわたって維持していくための、最も重要な土台作りだったのだと、心の底から実感しています。
歯周病宣告から始まった私の矯正治療への長い道