「大学病院での歯列矯正」と聞くと、なんだか敷居が高く感じられ、「特別な難しい症例でないと診てもらえないのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。確かに、大学病院は高度医療を提供する機関であり、外科手術を伴う顎変形症や、先天性疾患に伴う不正咬合、他のクリニックでは対応が困難な難症例などを積極的に受け入れています。これらの分野においては、大学病院が持つ専門性の高さやチーム医療体制が大きな強みとなります。しかし、だからといって、大学病院が難しい症例「だけ」を対象としているわけではありません。多くの大学病院の矯正歯科では、一般的な不正咬合(例えば、叢生(ガタガタ)、出っ歯、受け口、すきっ歯、開咬など)の治療も、もちろん行っています。つまり、一般的な矯正歯科専門クリニックで受けられるような、通常のワイヤー矯正やマウスピース矯正なども、大学病院で受けることが可能です。では、どのような場合に、一般的な不正咬合でも大学病院を選択するメリットがあるのでしょうか。一つは、前述の通り、「保険診療が適用される可能性がある特定の疾患」に該当する場合です。これは、症例の難易度とは直接関係なく、厚生労働省の定める基準に合致すれば、大学病院などの指定医療機関で保険診療を受けることができます。次に、「全身疾患をお持ちの方」や「歯科治療に特別な配慮が必要な方」です。例えば、心臓病や糖尿病などの持病がある方、あるいは血液をサラサラにする薬を服用している方などは、矯正治療中のリスク管理が重要になります。大学病院であれば、医科の専門医との連携や、緊急時の対応体制が整っているため、より安心して治療を受けることができます。また、「セカンドオピニオンを求めている方」や、「より詳細な検査や診断、あるいは最新の治療法について話を聞きたいと考えている方」にとっても、大学病院は良い選択肢となることがあります。教育・研究機関としての側面から、多角的な視点でのアドバイスや、幅広い治療選択肢の提示が期待できるかもしれません。ただし、一般的な不正咬合の治療を大学病院で受ける場合、専門クリニックと比較していくつか考慮すべき点もあります。例えば、担当医が研修医である可能性、待ち時間が長くなる傾向、予約の取りにくさ、そして紹介状が必要な場合や選定療養費がかかる可能性などです。