僕は社会人になってから、ずっと前歯のガタガタが気になっていた。人と話す時も、食事をする時も、どこか自信が持てない。意を決して矯正歯科に行ってみたものの、いくつかのクリニックで「歯を並べるスペースがないので、上下2本ずつの抜歯が必要です」と診断された。子供の頃から虫歯ひとつない健康な歯が自慢だった僕にとって、健康な歯を4本も抜くという選択は、どうしても受け入れがたいものだった。矯正自体を諦めようかと思っていた時、インターネットで「非抜歯矯正」を専門に行うクリニックを見つけた。最後の望みをかけてカウンセリングに訪れると、院長先生は僕の口の中をじっくりと診察した後、「あなたの場合は、歯を少しずつ削ってスペースを作るIPRという方法を使えば、抜歯せずに治療できる可能性が高いですよ」と提案してくれた。健康な歯を抜かずに済む。その一言が、僕の心を動かした。IPRで歯を削ることへの不安が全くなかったわけではない。しかし、抜歯と天秤にかけた時、僕にとってはIPRの方が遥かに魅力的な選択肢に思えた。治療は、マウスピース矯正とIPRを組み合わせて進められた。数ヶ月に一度、歯の側面をわずかに削る処置を受ける。最初は少し緊張したが、痛みはなく、時間もあっという間に終わった。マウスピースを交換していくたびに、ガタガタだった前歯が少しずつ整列していくのが目に見えて分かり、治療は楽しささえ感じられた。そして約一年半後、僕はついに理想の歯並びを手に入れた。健康な歯を一本も失うことなく。IPRという選択肢がなければ、僕は今も歯並びに悩み続けていたかもしれない。抜歯が唯一の答えではない。僕の経験が、同じように悩む誰かの希望になれば嬉しい。