ついにこの日が来た。長年コンプレックスだった歯並びを治すため、思い切って申し込んだ舌側矯正。装置が目立たないという一点に惹かれ、費用は覚悟の上だった。予約していた歯科医院の椅子に座り、数時間後、私の歯の裏側には銀色の装置がずらりと装着されていた。鏡で見ても、もちろん何も見えない。にっこり笑っても、誰も私が矯正を始めたとは気づかないだろう。その事実に満足感を覚えながら帰宅した。しかし、本当の戦いはそこからだった。まず感じたのは、口の中に常に異物があるという強烈な違和感だ。舌をどこに置けばいいのか分からず、無意識に装置を触っては、そのざらついた感触に驚く。そして、夕食の時間。楽しみにしていた唐揚げを口に入れた瞬間、後悔した。うまく噛めない。それ以上に、舌が装置に当たって痛い。結局、その日はお粥をゆっくりとすするだけで精一杯だった。夜、ベッドに入っても舌の置き場が定まらず、なかなか寝付けない。翌朝、昨日よりもはっきりと歯が締め付けられるような痛みを感じ、滑舌も心なしか悪くなっている気がした。これが噂に聞いていた「慣れるまでが大変」という時期なのだと痛感した。正直、少しだけ心が折れそうになった。でも、鏡を見て、理想の歯並びを手に入れた未来の自分を想像する。この違和感も痛みも、そのための通過儀礼なのだと自分に言い聞かせた。舌側矯正のリアルな初日は、想像以上に過酷だったけれど、新しい自分への確かな一歩を踏み出した日でもあった。