「歯列矯正は費用が高い」というイメージから、治療を躊躇している方も多いでしょう。その際、「もし健康保険が使えたら…」と考えるのは自然なことです。原則として、見た目を美しくすることを主な目的とした歯列矯正は「自由診療」となり、健康保険は適用されません。しかし、全ての矯正治療が自費というわけではなく、特定の条件下では保険が適用されるケースが存在します。これを知っているかどうかで、治療への道筋が大きく変わる可能性もあります。保険適用となる矯正治療は、大きく分けて二つあります。一つ目は、「厚生労働大臣が定める先天性の疾患」に起因する噛み合わせの異常です。代表的なものに「唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)」がありますが、その他にもダウン症候群やゴールデンハー症候群など、約60の疾患が指定されています。これらの先天的な病気が原因で歯並びや噛み合わせに問題が生じている場合、その矯正治療には保険が適用されます。二つ目は、「顎変形症(がくへんけいしょう)」の治療です。これは、上下の顎の骨の大きさや形、位置関係に著しい不調和があり、噛み合わせの異常だけでなく、顔の変形や発音、咀嚼機能にも問題が生じている状態を指します。例えば、極端な受け口や出っ歯、顔の非対称などがこれにあたります。顎変形症と診断された場合、矯正治療と顎の骨を切る外科手術を組み合わせた「外科的矯正治療」が必要となり、この一連の治療が保険適用の対象となります。ただし、これらの保険治療を受けるためには、どの歯科医院でも良いというわけではありません。「顎口腔機能診断施設」として国から認可を受けた、大学病院や特定の専門医療機関で治療を受ける必要があります。もし、ご自身の歯並びが単なる見た目の問題ではなく、骨格的なズレや何らかの疾患が関係しているかもしれないと感じる場合は、一度専門の医療機関で相談してみることをお勧めします。
歯列矯正に保険は効く?高額医療費の対象となる条件