「昔は綺麗だったはずなのに、いつの間にか下の前歯がガタガタになってきた」「上の前歯だけが重なり合っているのが気になる」。このように、お口全体ではなく、特に前歯の歯並びの乱れに悩む方は少なくありません。前歯は顔の印象を大きく左右する部分だけに、その乱れは深刻なコンプレックスになりがちです。では、なぜ前歯の歯並びは、これほどまでに乱れやすいのでしょうか。その原因は、一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。最も根本的な原因は、「顎の大きさと歯の大きさのアンバランス」です。現代人は食生活の変化などにより、顎が小さくなる傾向にあります。小さな顎に、全ての歯が綺麗に並ぶためのスペースが元々足りていない場合、歯は行き場を失い、特に歯根が細く動きやすい前歯が重なり合ったり、ねじれたりして生えてきてしまうのです。次に、見過ごされがちですが大きな影響力を持つのが「親知らず」の存在です。一番奥に生える親知らずが、斜めや水平に生えてくると、手前の歯を前方に向かってじわじわと押し続けます。その力は、まるでドミノ倒しのように歯列全体に伝わり、最終的に最も弱い部分である前歯にしわ寄せが来て、歯並びを乱す原因となるのです。さらに、日々の無意識な「癖」も、歯並びを悪化させる大きな要因です。舌で前歯の裏側を押す癖(舌突出癖)、下唇を噛む癖、指しゃぶり、頬杖など、持続的に特定の方向に力がかかることで、歯は少しずつ動いてしまいます。これらの要因に加え、加齢による生理的な変化も無視できません。年を重ねると、歯を支える骨が変化したり、長年の噛み合わせの力で歯が移動したりして、特に下の前歯に乱れが生じやすくなる傾向があります。このように、前歯のガタガタは、様々な原因が隠れているサインでもあります。その原因を正しく理解することが、適切な治療法を選択し、将来の歯の健康を守るための第一歩となるのです。