大学病院における歯列矯正治療の大きな特徴であり、メリットの一つが、「チーム医療」体制による多角的なアプローチです。一般的な矯正歯科専門クリニックでは、矯正歯科医が単独で、あるいは少数のスタッフと共に治療にあたることが多いですが、大学病院では、矯正歯科だけでなく、口腔外科、小児歯科、歯周病科、補綴科(被せ物や入れ歯などを専門とする科)、さらには放射線科や麻酔科といった、歯科・医科の様々な専門分野の医師や医療スタッフが緊密に連携し、一人の患者さんの治療にあたることが可能です。このチーム医療体制は、特に複雑な症例や、複数の問題を抱えている患者さんにとって、非常に大きな強みとなります。例えば、最も代表的なのが「顎変形症(がくへんけいしょう)」の治療です。これは、顎の骨格に著しいズレがあり、歯列矯正だけでは改善が難しく、外科手術を併用する必要がある状態です。大学病院では、矯正歯科医が手術前後の歯の移動計画を立案し、口腔外科医が顎の骨を切って移動させる手術を執刀します。手術中や術後の管理には、麻酔科医や看護師も深く関わります。このように、複数の専門家がそれぞれの専門知識と技術を結集し、綿密な連携のもとに治療を進めることで、より安全で確実な、そして質の高い治療結果を目指すことができるのです。また、「唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)」などの先天性疾患を持つ患者さんの治療も、チーム医療が不可欠です。出生直後から成人期に至るまで、成長段階に合わせて、矯正歯科、口腔外科、形成外科、耳鼻咽喉科、言語聴覚士、小児科医など、多くの専門家が関わり、長期的な視点で包括的なケアを提供します。さらに、重度の歯周病を抱えている患者さんが歯列矯正を希望する場合、まずは歯周病科で徹底的な歯周治療を行い、歯周組織の健康状態を改善してから矯正治療を開始する必要があります。治療中も、歯周病科医と矯正歯科医が連携し、歯周組織に過度な負担がかからないように慎重に歯を動かしていきます。虫歯の治療や、矯正治療後の補綴治療(例えば、インプラントやブリッジなど)が必要な場合も、それぞれの専門医とスムーズに連携できるのが大学病院のメリットです。このように、大学病院のチーム医療は、個々の患者さんの複雑なニーズに対応し、より総合的で質の高い医療を提供するための重要なシステムです。