歯周病で歯を失った50代男性が歯列矯正で機能を取り戻す
建設会社で現場監督として働く高橋さん(54歳)は、長年の喫煙習慣と不規則な生活がたたり、重度の歯周病と診断された。痛みやグラつきがひどかった下の奥歯は、残念ながら抜歯せざるを得なかった。歯を一本失っただけ、と高を括っていた彼だったが、数年経つうちに口の中に様々な不具合が生じ始めた。抜けた歯のスペースに、両隣の歯が倒れ込んできたのだ。その結果、全体の噛み合わせが狂い、食事の際には食べ物がうまく噛み砕けない。さらに、傾いた歯の周りには汚れが溜まりやすくなり、残っている他の歯の歯周病まで悪化し始めた。「このままでは、全ての歯を失ってしまうかもしれない」。強い危機感を覚えた高橋さんが相談に訪れたのは、歯周病治療と矯正治療を連携して行う歯科医院だった。歯科医師から提案されたのは、口腔機能全体を再建するための包括的な治療計画だった。まず、徹底的な歯周病治療で、これ以上の病気の進行を食い止める。次に、歯列矯正によって、倒れ込んでしまった歯を元の正しい位置に「起こし(アップライト)」、全体の噛み合わせを再構築する。そして最終的に、失った部分にはインプラントを埋入するための適切なスペースを確保するという壮大な計画だった。治療は、高橋さんにとって未知の領域だった。しかし、歯科医師や衛生士の熱心なサポートのもと、彼は禁煙にも成功し、真摯に治療に取り組んだ。約2年後、矯正装置が外れ、インプラントが装着された彼の口の中は、見違えるように機能的で美しい状態になっていた。歯列矯正は、彼にとって単なる歯並びの治療ではなかった。それは、歯周病で崩壊しかけていた口腔内をリハビリテーションし、残りの人生を自分の歯で健康に過ごすための、希望の光だったのだ。